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「おばはん、何してんのん?」

 高校生の多夢(たむ)は、今日も食事を済ますや否や、リビングの、ソファーに寝そべり片手にスマホを持ち、親指を器用に動かしている。その上だらしなく片足を、ソファーの背もたれにかけている。
〝なんと言うお行儀の悪い娘(こ)だろう〟と口から出かけたが、息と一緒に飲み込んだ。可愛い孫娘と、言えども75歳のトキ枝には、許し難い光景だ。

 トキ枝には、ちょっとした魂胆があった。携帯電話をガラ系からスマホに換えようと思っていた。使い方を習得するまでは、孫のお世話にならなければならない事が分かっていたから。今彼女の機嫌を損ねては、気を使いながら教えて貰うのも悔しいからだった。

 丁度そんな折15歳年下の友人聡(さと)子さんは、最近買ったスマホを自慢げに操って、
「ほら、こんなに、薄くなって画面も鮮明だし、写真もばっちり綺麗に取れるのよ。もうカメラも要らない位だよ」と、私達に見せた。その場にいた友人達はその画面を覗き込んだ。
「電話をかけた相手が自分と同じドコモを使っていたら 〟ドコモ〟と言うの。そしたら何時間おしゃべりしても無料なのよ!」と、聡子の説明は続く。聡子の無料と言う一言で、トキ枝はドコモのスマホを買う事に決めた。

 新しいスマホに買い換えたトキ枝は、もうかなり上手に使いこなしていた。すると確かに、相手もドコモを使っていると〝ドコモ〟と器械がしゃべる。トキ枝はそれに応えて、スマホに向かって大きな声で〝ドコモ〟と言い返す。もし声が小さくて伝わらなかったら、大変と思ってはっきりとした声で言っていた。

 ある日プラットホームで、いつもの〝ドコモ〟をやっていた。近くに居合わせた高校生の男の子3人がトキ枝の方を見て。
「おのおばはん、何、してんねんやろ?」と、周りにも聞こえる声で言い合っている。

 トキ枝は、数日後孫の多夢(たむ)にその事を聞いてみた。
「おばあちゃん、あほやな。向こうが‘ドコモ’と言うだけで、こちらは何も言う必要ないねんで」
「あじゃ!」トキ枝は、顔から火が出る思いだった。
「ああ、熱(あつ)う!」

-fin-

2014.7.1

【課題】 ○○と△△を間違えた

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