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当たるかな

 倉敷の街を散策した碧(みどり)達は、酒屋に入って、陶器で出来た酒の瓶の趣のある物を探したり、お土産物屋に入って物色していた。楽しい社員旅行も終わり、列車に乗り込んだ。向かい合わせに座った碧達は、社歴の浅い、派手好きな恭子の話し出す話につい引き込まれて盛り上がっていた。
 その話とは、恭子が前の職場でやっていた宝くじを、グループで、買うと言う事だった。
「当然連番で買うの。そして良く当たると噂されている売り場に明るい気持ちで買いに行くの」
「誰が買いに行くの?」と先輩格の朋子までが興味を持って来た。

「そりゃ、運の強い人。じゃんけんで買った人がその役目をするのよ」
「それでどうだったの? 当たったの?」碧が厳しい質問をすると、恭子は誇らしげに
「何度か当たっんよ。一番大きかったのは1000万円。その時は8人で山分け、山分け!」その得意げで、自信のある言い方は、かなりの説得力があった。もうそうなったら恭子の独壇場(どくだんじょう)だった。
「それが、面白い事に、福山さんとか恵比寿さんとか金蔵(かねくら)さんとか言う名前の名札を付けた人が、窓口に、いる事があるのよ。そうなったら、もう半分当たったも同然。わくわくして帰るの」大奥と囁かれている朋子も、後輩と同化して「そんな名前の人って、永久就職やね」と、周りの乗客に迷惑になる程に、話は声高に盛り上がって行くのだった。
堅実な碧は「でもそんな濡れ手に粟のお金って、ちょっと怖いね」 

「碧らしい事いうじゃん。濡れ手に粟じゃないのよ。その濡れ手を作りだす努力はするのよ」と又恭子の口元に皆は釘づけになった。
「それってどう言う事なの?」
大奥のプライドもかなぐり捨てて朋子は、恭子の言葉を食い入る様に待った。すると恭子は、おもむろに
「聞きたい?」とじらしながら
「買った宝籤は、黄色の栿差(ふくさ)に丁寧に包んで、神棚に供えるの。そしてどうぞ我が家に幸せの番号が舞い込みます様にと毎朝手を合わせて祈るの」
「へえ~~~!!」思わず皆が大きな声でハモッてしまった。誰が言うともなく、宝籤を買う事が決まってしまった。

 当選発表の当日碧はいち早くネットで、その成否(せいひ)を調べた。
「ええ? 1億円当たっているじゃないの! 嘘! いや本当だ!」と何度も番号を確かめた。早く朋子と恭子に知らせなきゃと思うが手が震えてままならない。喉がからからで言葉にならない。するとけたたましいベルが鳴り出した。
我に返った碧は「何だ。夢だったのか」と笑った

-fin-

2010.12.9

【課題】 10月の続きで最後が「  」と笑った となるフィクション

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