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玉手箱

 オーストラリア人の事を〈オージー〉と言うらしい。そのオージーが好むヌーサと言う街は、ブリスベンの30km位北に位置する。ヌーサから1時間位内陸へ車で走るとモントビルと言う芸術家が沢山住んでいる街がある。オージー達の自慢の街でもある。週末にはゴールドコースト辺りから車を飛ばして遊びに来る。日本で言えば軽井沢の様な所なのだ。
 私も毎年8月には日本の夏から逃げる様にして、ヌーサやモントビルへと通い続けている。オーストラリアは日本とは季節が逆で涼しい。冬と言っても18度位の陽気だから実に快適である。

 私には子供の頃から小さい物に心を惹かれる癖がある。今年の夏モントビルで可愛いキャンドルカバーを見つけた。直径4㎝位、高さ3㎝位の小さいガラスのコップの様な形。色んな絵が描かれている。
 例えばお花畑の様な模様だったり、夕陽の沈む海の風景、アラビアンナイトに出てくる様な街の家々の絵もあって、どれを見ても捨てがたい可愛いさがある。ウインドウショッピングの積りの私の足を止めさせたコップ達だった。30種類位あってどれを見ても欲しくなった。私の気持ちは高揚していた。
 3つ4千円位の物なのに選択能力が無くなって結局20個買ってしまった。まるで子供が大好きな玩具を買ってもらった時の様な気分になった。とても贅沢をした感じだ。
 2~3万円位でこんなに豊かな気分になれるのだと、思い掛けない発見だった。

 帰路車の中で、どんな使い方をしようかと、イメージが広がる。本来キャンドルカバーなのだから夕食時に、部屋の電気を消して食卓に置き、炎が揺ら揺らするのを眺める物だろう。だが最近の私はムードより明るい事の方が有り難く思える様になっている。間接照明の暗い所では何を食べているのか分からないし美味しく感じない。蛍光灯の明るさが嬉しい。80歳手前になると、お洒落な店でも薄暗いと階段を踏み外さないかと慎重に足を進めている自分がいる。歳を取ったものだと思う。

 そんな訳でキャンドルカバーではなく、お料理に使ってみようと思った。バーニャーカウダー(野菜につけるソース)を入れてスティック状の野菜を添えるのも良いなあ。箸やすめのシャーベットを入れても良い。白い豆腐を入れたり、大根と人参のなますを入れてもキット映えるに違いない。料理の腕前の悪さをこんな風に器で補うのも楽しいものだ。

 そうだ! 友達を呼んで女子会をやろう。まるで玉手箱のようにイメージが溢れてくる。
友達の感動する顔、顔、顔が浮かんで来る。

-fin-

2015.12.31

【課題】 買物

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