top of page

嫉妬心

 あるディナーパーティーで高齢の神父さんとテーブルが同じになった。以前から疑問に思っていたことを恥ずかしげもなくぶつけた。
「天国と地獄は本当にあるのでしょうか?」にっこり笑いながら、穏やかに
「あると思う人にはありますね。ないと思う人にはないものです」と、禅問答のような答えが返って来た。
「へぇ~、私はある様に思うのですがね。あの世ってどんな所なのでしょうか?」と、たたみかけると神父さんは
「それはね、比べない所ですよ。他(ほか)と比較しないのです。比較しないと気持ちは楽になりますね。それが天国ですよ」と、尚もにこやかに答えてくださった。〈成程!〉と、もうすぐ80歳を迎える私はえらく納得してしまった。
 ゴルフは健康的なスポーツだがやはり数字の世界。一人一人のスコアが表示される。特にコンペになると参加者全員の順位が発表される。このことに私はいつもプレッシャーを感じている。上手な人にはそれが励みになり面白さ楽しさが増すのだろうが、下手な私はいつもみじめな気持ちで順位を恨めしく思う。〈どうして私はこうも下手なんだろう〉。人間の心理として、他人が自分より優れていると、それにたいして羨む気持ちが出てくる。羨んでいる内はまだ良いのだが、自分と技量が変わらない人が、ある日突然に良いスコアになると嫉妬心に代わる。
 生まれつき運動神経が優れていて器用にこなす人もあるけど、殆どの人が見えない所で、かなりの努力をしていると言われる。私はそんな努力もしないで上手になれないと嘆くのも虫の良い話だと思いながらも、いつも気が晴れない。
 ある時、そのライバル(低レベルでのライバル)が優勝された。表彰式のあと恒例の優勝者の挨拶が行われる。
「今日は良い… お仲間…に…恵ま…れまして、あのう、あのう、有難うございました」と、緊張を表に出し、実にタドタドシク挨拶をされた。それも、常套句の如くの挨拶に私は〈もう少しましな挨拶ができないの〉と、心が晴れた。〈私だったもう少し気のきいた挨拶ができるかも知れない〉。でもそんな機会は回ってくる筈もない。
 人が失敗したことで、心が晴れるって、なんて心の狭い事だろう。そんな自分を見られていないかと思わず周りに目をやった。

-fin-

2017.5.1

【課題】 心が晴れたこと

bottom of page