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嘆かわしい、嘆かわしい!

 清子が家を出て行ってしまった川澄家は火の消えた様にがらんとしていた。父と母が今日も小競り合いをしていた。
「母さん、清子は結婚する気ないのかね?」
「どうなんですかね」と母。
「結婚も考えない我侭娘に育てたのは一体誰なんだろうね?」
「あら! お父さん! 又私のせいにするのですか?」と強い語調でにらみつけた。

 清子は35才になって、やっと親元から離れ、小さいながらも一人住まいの城を作った。〝これって自分の財産!〟と、ショパンのノクターンを聴きながら、白いソファーに寝そべり、大きく開けた窓から入る爽やかな風が心地良かった。コーヒーの香りに浸りながら、でれっとしているこんな時間が好きだった。彼女にとってこの空間が全部自分のものだと思うと何と贅沢だと思えるのだった。
 同級生の桂子は、小さな花屋を経営していた。二人の家が近所という事で、時々桂子は店の余り物の花を持って清子を訪ねた。桂子を出迎えた清子は一瞬ちょっと嫌な顔をしたが、何事もなかった様に桂子から貰った花束をテーブルに飾る。
 玄関に揃えたスリッパも履かないで、桂子は持ってきた自分のバッグをテーブルの上に置いた。潔癖な清子は食べ物を置くテーブルに、何処におくか解らないバッグを無造作に置くその無神経さを嫌った。
 でもそれを口に出す勇気もなくこらえた。
 女性も生活力が出来、35才にもなると、一応自分なりの生活パターンが出来上がるものだ。何にも代え難い自由な時間と自分の価値観を変える事が出来ず結婚には踏み切れない清子。 
 桂子も長年の夢だった、自分の店が持てた事。花の精に囲まれ、お客が増えて行く楽しさもある中、結婚の事は頭の隅にも置かなかった。

 清子の父は母に言う。
「〝贅沢を覚えさせ、自由を与え、出来るだけ楽な生活が出来る様に〟と、刷り込んだのだから」と。
「まあ! お父さんだけが良い子になって。連帯責任じゃないですか!」と母は眉を吊り上げて怒った。
 はっと気がついた頃には、40歳を有に越して子供を産める年齢も過ぎてしまう事になる。こんな女性が多くなると、日本の人口は益々増えないではないか。
 何と嘆かわしい事かと、日本の未来に憂いを感じる両親だった。

-fin-

2014.5.1

【課題】 登場するものを2つ出す

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