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玉虫色もええもんや

 76年生きて来て、ふり返れば茨の道、挫折にあえいだ時期、希望に満ち溢れた時代と色々あった。今健康で平和な生活を送る事が出来ているのは、総合点で良い人生だったと言えるのではないだろうか。
 その間色んな国にも行かせて貰った。
 海外で、あるいは帰国したその度に 「日本は良い国だ。日本人は優れた民族だ」と再認識し、ほっと心解(ほぐ)される。
 なぜなら、日本人は〝おもてなしの心と、人間関係を円滑にする譲り合いの精神〟を持っているからだ。

 物騒になったとは言え街中(まちなか)はまだまだ安全だ。公衆トイレは平均して清潔で、ホテルにはウォシュレットが備え付けられている。宅急便が確実に配達され、忘れ物が届けられる。列車が時間通りに来る。都会なら何処からでもタクシーが拾える。
 これらもおもてなしだ。心解(こころほぐ)されるおもてなしを数え上げればきりがない。「こんな幸せな国に住んでいるのに、有難さを感じていない罰当たりな所が今の日本人にはある」と思う。
 
 それに、世界中の誰もが苦労する人間関係の難しさを、日本人は謙虚さと根気強く粘ることで衝突をさける術(すべ)を覚えたのでは無いだろうか?
 時には大阪人の「考えときまっさ」は「結構です」と言う様に、直接的な言葉を使わず、『なんとなく雰囲気で分かってよ』と玉虫色の返事が人との摩擦を避けている。これも術の一つだ。
 昔私は洋裁をしていた事があった。高級な絹のドレスを縫っていた時に、糸が絡み、そのもつれをほぐす為に、布を傷つけない様にと、虫眼鏡で、絡んでいる芯の所を見つけ出し、ピンセットや爪楊枝を使ってほぐしたものだ。
 人間関係の拗(こじ)れを解くのと糸のもつれをほぐすのは良く似ている。絡んでいる芯の所を、やんわり扱い根気良く取り組まなければ、糸は切れてしまう。
 拗(こじ)れた感情を解くには、一神教でなかった日本人だからこそ、都合が良かった面もある。
 草や太陽やトイレにも神が宿ると信じ、「キット誰かが見ている」の謙虚な姿勢が、人間関係のもつれを解く鍵なのかもしれない。

 日本人の気質や言動を思うにつけ、私の心はゆっくりと解(ほぐ)されてゆく。

-fin-

2014.5.31

【課題】 ほぐす事に関して

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