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「メンテナンスって大事やで!」

 私は映画の時間待ちにロビーのソファーに座りスマホをいじっていた。背中合わせに座っている私と同年配の70歳中頃の二人連れの女性の会話が耳に入って来た。
 一人の女性が言うには「主人を見送り一人になったでしょう。私の周りには一人取り残されて寂しがる人も居るけど、私は自由な時間をいっぱい貰って主人に感謝しているのよ」。もう一人の女性も定年後独り暮らしをしているらしい。お互い一人生活をエンジョイしている様子だ。
 聞き耳を立てていた私は「成程!」と、その二人の仲間に入って会話を交わしている様な気分になっていた。
 二人の会話はまだまだ続く。
 主人をあの世に見送った女性は、
「主人が居て家族が一緒に住んでいた間は、私の時間は自分以外の家族の為の待機時間だった。私の仕事は、体を空けて待つ事だった。車での送り迎え、料理を作り家族の帰りを、ただただ待つ事。末の娘もやっと結婚して家を出て行った。今は全部私の時間だと思うとゾクゾクする位の幸せを感じるわ」

 家族はいつの日か去って行く。仕事も仕事仲間もやがてはいなくなる。そこで残るのは友人である。過去の忙しい時にも、友人作りに、時間を費やしてきた人は、一人になった時寂しさを乗り越えて至福の時を持てるのだと言うのだ。
 必要な時に、駆けつけてくれて、慰めたり支えて呉れたりする友人が居るかどうか。そのためには、友人を作る努力や、友人のお誘いにも付き合うと言うメンテナンスが大事だと話は弾む。

 私は「メンテナンス」等と、知らずに、友人からの誘いに3度断るともう誘ってくれないと言う様な感じがして、そんな時は「今回は行けなくて残念だけど、懲りずに誘ってね」と付け加えて来た事は正しかったのかもしれないと思った。

 家族にはついメンテナンスがいらないと思ってしまうが、それは大きな誤算である。家族へのメンテナンスをないがしろにして来た男性は、家族に居場所を失くしてしまうと言うのだ。
 結局その会話は、「植木にも、動物にも、家にもメンテナンスが必要な様に、家族にも友人にもメンテナンスが大事だ」と言うのだった。

 私は今日映画を見る前に、何よりな大きな儲けものをした気分になった。

-fin-

2014.10.1

【課題】 名言

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